「これまでと これからの まちづくりを探る」

一般社団法人 奈良県建築士会 住まいまちづくり委員会 生駒支部 伏見康司

 


令和元年度 全国まちづくり委員長会議

 

地域と密接な関係にある建築士が、その職能を活かし、住民が求めている景観形成、地域の防災、居住環境の保全、改善、あるいは歴史的文化遺産の保全、再生、地域の活性化などに対して、専門的支援要請に応え、手助けする地域貢献、社会貢献活動が建築士としてのまちづくり活動です。

 

日本建築士会連合会が主催する「第28回まちづくり会議」は令和2年1月31日と2月1日に「これまでとこれからのまちづくりを探る」と題し、東京都港区三田の「笹川記念会館」で開催されました。

北海道から沖縄までの各都道府県で活躍をする「まちづくり」に携わる委員会から総勢131名の参加です。 

平成28年度から30年度にかけて、日本建築士会連合会が主導して構成されるまちづくり委員会には6部会が設けられ、活動を展開しています。

「景観まちづくり部会」は建築士会が景観整備機構をつくり、行政と連携して多様な方策による地域の景観形成を目標に仕組みをつくっているところです。

「防災まちづくり部会」は近年、各地で起こっている自然災害に対し、復興まちづくりの支援活動を目的に設置されました。

「歴史まちづくり部会」は歴史的価値のある特定行政庁指定の文化財などに対し、その保存と有効活用を支援することを視野に入れ、そのことがまちづくり活動の中心となることを目指しています。

「街中(空き家)まちづくり部会」は当初、中心市街地の疲弊した商店街の活性化に取り組むことを目的に立ち上げられました。現在は、大量に発生している空き家問題にも同時に取り組んでいるところです。

「福祉まちづくり部会」は福祉行政などと連携を図り、建築に関する専門性を発揮する建築士の活動を促進することが目的です。住環境や公共施設の整備などには積極的に取り組まれました。

加えて「木のまちづくり部会」は平成29年に行われた全国大会「京都大会」の前年度から取り組まれた「山とまちと木造建築」を機に、川上から川下までの木に携わる地域産業の担い手が連携して活性化を目指しています。

これらの取り組みは、日本建築士会連合会で連携を図り、「木のまちづくり部会」を除き、全国の建築士会に人員を配し、それぞれの部会における目的を達成するための手引きをするなどして、活動が促されています。

 

今年は東京オリンピック、パラリンピックが開催されます。これにより東京のまちが大きく変貌を遂げました。地方にも影響を及ぼしており、まちづくりの活動も変化をしようとしています。

まちづくり部会の「景観」「防災」「歴史」「街中」「福祉」の各部門が意識的に連携を図り、地域で活動されている現状があるのと同時に、都市(東京)と地方の相互連携がその活動に求められることを開催の趣旨として始まりました。

まずは、「東京2020の今までとこれからのまちづくり」について、法政大学特任教授の陣内氏による講演です。

戦後の高度成長期や、オイルショックによる低成長の時代を乗り越え、都市が形成された経緯を聞きました。この変遷に対し、量や規模より質に目を向け、現存するまちづくりの事例が評価されていることが述べられました。

続いて、都内で繰り広げられている事例を知り、感じることを蓄え、次の意見交換に繋げます。

「東京のまちづくり/景観、防災、歴史、街中、福祉の観点で」と掲げられた5つの事例報告の掲題は次の通りです。

「代官山とヒルサイドテラスのまちづくり50年:渋谷区」

「歴史と文化を継承、活用する谷中のまちづくり:台東区」

「景観まちづくりから地域コミュニティを考える:墨田区」

「東京建築士会品川支部のまちづくりの取り組み:品川区」

「文京建築会ユースの取り組み:文京区」

それぞれが都心部ではありながら、その取り組みや抱える問題は、地方と比べてそう遠くかけ離れてはいないように感じました。

しかしながら、参集した建築士が、各々の地元に持ち帰り、取り組みとして、事例を参考に置き換えられるかといえば、想像が難いというべきかもしれません。圧倒的な違いは、そこに関わる人がたくさん存在する事でした。人口が減少することに付随する問題を抱える地方のまちづくりに組み込むには少し違う視点が必要かもしれません。

 

2日目は「5部会からみる東京のまちづくり/まちづくりの課題と今後の方向性を探る」を題材に、5つのまちづくり部会に2卓を設け、机を囲んだ意見交換を行いました。

前日の取り組み事例の当事者を、分かれた机に招き、決められた時間で移動をして、5つの部会を一通り巡る形式がとられました。事例の当事者は、それぞれの取り組みの補足説明や問題の提示を行いました。各部門の委員からの質問にはその場で応答していただき、委員から出た意見や提案は各取り組みに持ち帰っていただきました。 

机を囲んだ参加者にとっては、活動において参考になった有意義な討論でした。その後の活動の動向にも興味を持ちながら、10卓からまとめが発表されました。

 

現在、奈良県建築士会では日本建築士会連合会や近畿建築士会協議会が推進するまちづくり活動を担う委員会として、「住まいまちづくり委員会」を設置しています。

5つの部会に対しての人員は配置し、それぞれの部門に与えられた課題に対して取り組んでいるところです。

まちづくり活動は、地域に根付いた建築士による地域貢献、社会貢献活動です。地元に目を向けると、職能を活かした関わり合いが、必ず必要とされるものです。これらに対して、日本建築士会連合会がそれぞれのまちづくり部門に対して発行している手引書をもとに人材育成を行い、建築士として活躍ができる場を広げていこうとしています。

奈良県建築士会でも、実施が可能な分野に関する研修会を行い、担い手を整えているところです。まちづくり活動に取り組もうとする行政や団体に対して、要請があれば、研修を修了し、専門知識を持ち合わせた建築士の派遣を行っているところです。

活動は継続をして実践をすることが最も困難なことです。無料奉仕の活動が少なくないことは否めません。そのため、そこに必要となる人員や活動資金の不足、催し物の周知や動員が困難などということが原因で、活動の継続を断念せざるを得ない事態が発生します。

これらに対し、毎年行われている「まちづくり会議」において、事例を見て聞いて、意見交換をして情報のやり取りを行っています。

これらの情報を持ち帰ることにより、始める契機になったり、続けるべきかを悩んでいた活動を継続する手段が見えてきたり、または単純に励みにもなります。

専門性に特化した建築士として、地域住民との密接な関係をもち、継続して地元の活性化に寄与することにより、一人の人として信頼されます。このことが本業に対しても、より広く濃い関係のつながりを持つことができるのです。