空き家の活用に関する研修会

 奈良県建築士会 住まいまちづくり員会 伏見康司

 

 全国の空き家総数は、平成25年度の住宅、土地統計調査(総務省)によると、総住戸数6,000万戸のうち820万戸あり、この20年で倍増してきています。

 奈良県下では平成26年公布の「空家等対策の促進に関する特別措置法」を受け、特定行政庁を含め複数の市町村が先駆けとして協議会等を発足しています。この中で空き家等対策計画策定などの取り組みをしている行政に対し、すでに建築士が専門家として出向しています。続いて発足する複数の市町村の会議にも、専門分野として建築士が必要とされています。

 

橿原市ホームページより引用

 

これらの取り組みの中には空き家の流通促進を検討する仕組みを構築している行政があります。これを運用している生駒市では「いこま空き家流通促進プラットホーム」が各分野の専門家団体と連携協定を締結し、生駒市を拠点とする事業者が支援にあたっています。橿原市でも今年度、同様にプラットホームが発足されました。

 

生駒市ホームページより引用

 

 

日本建築士会連合会ではこれらの流れに先立って、平成28年度、空き家の問題に対応できる人材の育成を目的に、空き家の活用に関する研修テキストを作成し、空き家の活用に関する研修カリキュラムの考え方がまとめられました。     

 

日本建築士会連合会発行

 

 

今年度、国土交通省では、全国の空き家対策を一層加速化させるため、多様な相談に対応できる人材育成や専門家等との連携による相談体制の構築、空き家の発生抑制等の共通課題の解決を行うモデル的な取組を支援する「空き家対策の担い手強化・連携モデル事業」について、これに取り組みを行う団体からの提案を募集し、ある一定の審査のもと採択された団体に支援をすることとしました。

 

国土交通省 事業概要より引用

 

 

住まいまちづくり委員会ではこれらに促され、平成30年10月20日、21日、11月4日の3日間にわたり、履修内容を15時限に分けて講座を設営し実施しました。

 建築の専門分野である建築士として、空き家問題の現状と課題を知り、「空家等対策の促進に関する特別措置法」の趣旨、その施策の基本方針を理解したうえで、多岐にわたり関連する法規を概観し、基礎知識を習得する必要があります。また、その運用、活用について専門家の業務分担と連携のあり方を理解することにより、通常の業務に加えて、空き家に対応するための技術力や調査能力、文化的価値を評価する能力を備えることが重要です。その専門的な知識を持って助言する相談業務など、これから求められる建築士の新たな業務領域の拡大を見据え、広く社会に貢献する取り組みの一つとしてとらえることが期待されます。

 

 講師には建築分野のみならず、空き家対策を取り巻く異分野の行政、司法書士、税理士、宅建関係、不動産管理関係、地元ですでに活動をしている相談やマッチングを手掛ける空き家専門の法人、そして地域の活性化を図るまちづくりの法人の方々にお願いをし、連合会が作成したテキストを参考に、講師の方々で作成された奈良県独自の資料に基づき講義をしていただきました。

 

空き家の改修の事例を学ぶ講座では、桜井市で改修された飲食店と宿泊施設が紹介されました。座学のあとに現地へ赴き、直接目で見ることで、より具体的な学習が出来ました。また、継続して運営ができる仕組みづくりについて、地域ぐるみで取り組む重要性を学ぶことが出来ました。

 

今井町では改修工事中の二つの現場において、その手法を解説付きで学ぶことができました。また、調査実習が行える状態の現場もあり、座学のみでは習得しがたい、より実務につながる講義ができました。

 

空き家の利活用には地域の活性化を手助けする要素も含まれます。事前の改修の提案にはその地域の特徴的な意匠を鑑み、さらには既存の状況を分析した上での構造的な補強案や平面計画の作成、或いは法の適合性の検討やそれに代わる手段を考慮しなければなりません。側面では改修された建物が存続して経済的に活用されることを導くなど、その手腕が問われる極めて重要な役割を担います。これらに応えられる建築士に期待が寄せられることでしょう。

 

この研修会は応募した国土交通省の支援事業に採択をされたものです。次年度も開催の予定です。

 

この度の研修会で、すべてを履修された受講者には修了考査を実施し、その結果36名の修了者を輩出しました。修了者には市町村からの協力要請があれば、出来るだけ当地に近い人員を派遣推薦する所存です。